三本木書院

ご挨拶

2011年の震災の後、私たちは少しだけ変わりました。みずからの幸福を犠牲にせずに誰かの役に立てるものなら、立ちたいと思うようになりました。贈与論を書いたマルセル・モースが読みなおされました。私が理事の末席にいる公益財団法人京都地域創造基金は「市民公益活動を支える資金循環」のしくみを築いてきましたが、このしくみが被災県を含む多くの都道府県へと拡大し、2014年には傘団体として一般社団法人全国コミュニティ財団協会が誕生しました。
幸福を追い求める心につけいるポピュリズムとは裏腹に、誰かの役に立つことなくして自分の幸福もない、というあたりまえの感覚を、私たちはとり戻そうとしているのかもしれません。

一般社団法人三本木書院は、株式会社現代短歌社から事業譲渡を受け、2017年4月に発足しました。
短歌が得意としてきた嘱目詠(目に触れたものを即興的に詠むこと)は、自然から贈られたものを言葉に変換して人に伝え、人から人へと循環させることに他なりません。短歌は本質的に贈り物(ギフト)なのです。
歌集は、野を歩きながら摘んだ花でこしらえた花束に似ています。歌集が歌人からの贈り物(ギフト)であるなら、読者が歌集を買うことは寄付行為に等しいでしょう。私は版元に富が蓄積することを怖れます。歌集はそうそう売れませんから、心配には及ばないのですが、それでも怖れます。歌集の売上を読者からの贈り物(ギフト)として受け取り、誰かに手渡し、社会に循環させることを考えずにはいられません。
一般社団法人三本木書院は、<著者と読書と誰かをつなぐ>をコンセプトに、世の中にどうしたら贈り物(ギフト)が増えるかを、出版を通じて考えていきます。
私たちと共にお考えいただければ幸いです。

2017年11月
一般社団法人三本木書院 代表理事
真野 少

トップに戻る